集いを歓びに

Vol.4  ルネ・マルタンさんインタビュー

今年で9回目を迎えるラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン「熱狂の日」音楽祭。ゴールデンウィークの丸の内をクラシック音楽の力で熱狂の渦に包むという、10年前までは考えられなかった現象を引き起こしたのが、音楽祭のアーティスティック・ディレクター、ルネ・マルタンさんです。マルタンさんがこの音楽祭にかけた想い、根底にある願いは何なのでしょうか。あらためて、音楽祭誕生の鍵となったコンセプトをご紹介します。 

■多くの人がクラシック音楽を聴く「仕組み」を考える

 東京国際フォーラムでラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン「熱狂の日」音楽祭が開催されて9年目を迎えました。昨年までに延べ520万人もの来場者数を記録しています。まさに、多くのお客さんやアーティスト、そしてスポンサーの方々の「集い」によって、この音楽祭は世界最大規模となりました。私が故郷のナント(フランス北西部の港町)でこの音楽祭を始めたのは、1995年のことです。クラシック音楽の楽しさをたくさんの人と共有したい! そんな私の情熱と、それに賛同して下さった多くの方々の想いが、今日のラ・フォル・ジュルネを作り出しています。
少年時代、私はジャズに夢中でしたが、バルトークの音楽に出会ったことがきっかけで、ナントの音楽院でクラシック音楽を学びました。一方、ナント大学・大学院で経営学を学び、ナントのオペラハウスにお客さんを集める方法を研究テーマとしました。やがて私は、外国から有名な演奏家を呼び、スポンサー企業を見つけて、自分でコンサートを企画・実現し、南仏での音楽祭を開くようになったのです。そんなある日、ナントのスタジアムに集った3万5千人の若者たちが、ロックバンドのU2のコンサートで盛り上がっているのを目の当たりにしました。その時ふと気がついたのです。クラシックの音楽祭でも、こうした熱気を生み出すことはできるのではないだろうか、と。たまたまクラシック音楽を聴くチャンスがなく、その楽しさに出会っていない人は多いはず。そうした人たちに、クラシックの素晴らしさを伝えられるような仕組みを考えれば、きっと熱狂的なクラシックの音楽祭を実現できるはずだ、そう考えたのです。

 ■5,6人の鑑賞会から10万人単位の音楽祭へ

U2のライブに来るような若者たちをも呼び寄せられるような、熱気あふれる音楽祭を作る。そのためのアイディアは、次々と浮かんでいきました。まずは、一つの場所で、たくさんの演奏会が同時に行われること。そしてそれぞれが低料金で、45分ほどの長さで楽しめること。さらに、有名曲から知られざる傑作をプログラムに組み込んで、まるで祭りのように熱気にあふれた空間を生み出すこと。こうしたコンセプトが実を結び、最初のLFJをナントで成功させることができました。2005年からスタートした東京のラ・フォル・ジュルネは、ナントの音楽祭を再現することに留まらず、「0歳からのコンサート」や「クレール・オプスキュール(暗がりのコンサート)」など、東京ならではの新しい試みを徐々に取り入れ、この音楽祭の魅力をさらに広げていきました。
その結果、延べ520万人ものお客さんが東京のラ・フォル・ジュルネに足を運んでくれるまでとなったのです。しかし、私の根底にある「素晴らしい音楽を人と分かち合いたい」という強い想いは、昔から何も変わっていません。学生時代、私は自分が心からいいと思う音楽を友人にレコードで毎晩のように紹介していました。友人5,6人を集めていた当時から、私の願いは変わっていないのです。もちろん、今や毎年何十万人もの人たちと共に音楽を楽しむことができるようになったのは、本当に大きな歓びです。2013年のテーマは「パリ、至福の時」です。日本の皆さんに、満を持して私の母国フランスの音楽、そしてスペインの音楽を存分にご紹介できることを、心より嬉しく思っております。19世紀後半から現代にいたる150年の一大パノラマをたっぷりと楽しんでいただけきたい思います。

■テーブルに集い、音楽というご馳走を楽しむ


今回の東京のラ・フォル・ジュルネのメインビジュアルは、作曲家たちが気球に乗ってパリ上空を飛行しているイラストですが、実はこの画像は東京のためだけの特別仕様で、ナントでは別のイラストを用いています。ナントのメインビジュアルは木立の庭にフランスとスペインの作曲家たちが集い、テーブルを囲んでくつろいでいるというものです。このイラストはルノワールの絵画や、画家の次男で映画監督のジャン・ルノワールの有名な作品「ピクニック」の一場面からインスピレーションを得て作成したものなのですが、フランス人にとってテーブルは出会いの場であり、集いの場、そして「分かち合う場」の象徴なのです。それは、集うことによって至福の時を分かち合うフランス流の生き方や価値観のシンボルでもあります。今年のラ・フォル・ジュルネでは、東京国際フォーラムというテーブルに、音楽家たちが心を込めて供するフランスとスペインの素晴らしい料理やワインの数々が並びます。東京国際フォーラムに集い、さまざまな音楽と出会い、心ゆくまで至福の時を分かち合っていただければ幸いです。
 (構成:飯田有抄)


写真、上より
ナントメインビジュアル
東京メインビジュアル
音楽祭、会場の様子

プロフィール

1981年、南仏の豊かな自然に囲まれた小村ラ・ロック・ダンテロンに国際ピアノ音楽祭を創設。今や世界最大級に成長したこのピアノ音楽祭には、ラドゥ・ルプー、マルタ・アルゲリッチ、ミハエル・プレトニョフ、エフゲ二―・キーシン、ネルソン・フレイレ、ニコライ・ルガンスキーら世界一流のピアニストが幾度も出演している。1988年、大ピアニストのスビャトスラフ・リヒテルより仏トゥレーヌのメレ農場で行われる音楽祭を任されるようになり、二人は強い協力関係で結ばれるようになる。マルタンはリヒテルとともに100以上のコンサートを企画制作。またリヒテルの音楽祭「12月の夕べ」(モスクワ・プーシキン美術館)も指揮した。
1986年、仏ラ・ポールでコンサートシリーズ「エルミタージュ=バリエールでの楽興の時」を開始し、リンゼイ弦楽四重奏団、イザイ弦楽四重奏団、アラン・ムニエ、レジス・パスキエ、ジャン=クロード・ペヌティエ、ロラン・ピドゥ、ジェラール・コセ、カプソン兄弟、ジャン=エフラム・パウゼら、現代最高の室内楽奏者達を招聘。2年後の88年には、キリスト教修道院としては西欧最大のフォントヴロー王立修道院の芸術監督に就任。10のコンサートホールを有するこの修道院には指揮者のフィリップ・ヘレヴェッヘ、ウィリアム・クリスティ、ポール・ファン・ネヴェル・クリストフ・スペリングらが率いる宗教音楽専門の名楽団を迎えている。

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